22 Feb
THE TABLOID
2019 S/S
# 2
In Dialogue With Nature
Anne Schwalbe
自然のありのままの美しさを、写真表現で丁寧に紡ぎ出すアンネさん。なぜ自然を撮り続けるのでしょうか?
ベルリンに住んでいましたが、週末や長い休暇になると、両親や祖父母とともに田舎で過ごして育ちました。自然に囲まれると、とても快適で開放的だと感じます。それに、興味をそそられる対象ですね。しばらくの間、都会に身を置き続けると、制作意欲すらなくなってしまうほどです。特にこれといったプランを立てず、感覚を頼りに写真を撮ります。常にカメラを持ち歩いているので、心惹かれる風景に出会った瞬間にフレームに収めるといった具合ですね。現在は、田舎と都会の二拠点生活をしていますが、ほとんどの作品が田舎で撮られたものです。空間、自然、そして静寂—田舎では、都会よりももっと面白い被写体に出くわします。それに田舎暮らしの方が、より豊かだと感じますね。
写真を撮る際の決め事はありますか?
曇りがかった空のもとでの自然光が気に入っています。自然の持つ色合い全てが引き立ってくるからでしょうか。その程よい明るさも撮影に向いていますね。とは言え、晴天下で撮る作品も好きです。自分の勘に従って、なるべく決まり事に縛られずに制作することが良い結果に繋がると考えています。
写真に限らず陶芸や裁縫、ガーデニング、そして自宅の改装までご自身の手で行っていますね。
手を動かしてモノを創り出すことに喜びを覚えるからです。素材から加工、出来上がりと、一連のプロセスが見えるので強い充足感がありますね。さまざまなジャンルのクラフトに興味がありますし、陶芸や籠織りなどの授業を受け、実践を通じて少しずつ学んでいます。自分で縫製して仕上げた洋服を着て、自家栽培した野菜を自分の手で作った皿で食事をすることは、大変素晴らしいことです。近い将来には、より多くの若者がクラフトに興味を持ち、ワークショップに参加することになればと望んでいます。数百年もの間に蓄積された知識や経験などの継承にも繋がりますからね。
近年は、草木染めも始められたそうですが。
胡桃の殻の染め色が持つ、暗めのピンクがほんのり混ざった絶妙な茶色が大好きです。これまでブラウスも数着染めていますよ。昨年は、ベルリンを拠点に製本家と天然染色家の二足のわらじを履く日本人作家と私、そして友人の三人で染めのワークショップを行いました。草木染めは、労力がかかるうえに、どんな色合いに染まるか予測がつかないものです。しかも、時間とともに色合いが変化していくことも受け入れなければなりません。どのみち、この世のものは、全て移ろい行く存在ですからね。
日常生活の記録をSNS*で発信するなかで、写真以外に動画をアップされていますが、動画ならではの良さとは何でしょう?
ある種の雰囲気や瞬間を捉える点においては、動画の方が伝達手段としてより優れていることがあります。目から入る情報以外に、風の音や鳥のさえずり、湖畔にいるヒキガエルの鳴き声など、神秘的な音色を繰り返し追体験できるからです。そういった意味でも、動画における音の役割は大きいと思います。
次の目標を教えて頂けますか?
ベルリンから離れた田舎にある自宅の改装に取り組んでいるのですが、その家に住むには、まだまだやらなければならないことが山ほど残っています。改装を通じて、木骨造の構造や土壁についても学ぼうと思います。それから新作『WIESE GARTEN BAUM』の写真集制作にも取り掛かりたいですね。
Anne Schwalbe アンネ・シュヴァルベ
ドイツを拠点とする写真家。ランドスケープや自然、日常の一瞬一瞬を丁寧に写しとる作風で知られる。現在、独大衆誌『DIE ZEIT』のサプリメントのガーデニングページを担当。国内外で写真展を開催するほか、プリント作品や自費出版作品集は、国際的な美術館に収蔵されている。
HP www.anneschwalbe.de Instagram www.instagram.com/anneschwalbeFurther Development
Kazumi Takigawa
モノづくりにおいて、偏愛するもののレプリカづくりにとどまらず、さらには独自に発展させる作家がいます。クラフト紙でできた簡素な紙袋が持つ、独特な風合いをこよなく愛する瀧川かずみもそのひとり。彫刻を専攻していた学生時代、コットンと蝋の組み合わせが、紙袋の質感と酷似していることを素材研究のなかで偶然発見。以来、素材を丈夫な帆布に置き換えて、使い込むことで愛着が生まれる「紙袋の再現」を行っています。
帆布には、紙のフラットな質感にほど近い、織り目の細かい日本製のものをセレクト。裁断から縫製までの全工程は、作家本人が手がけます。紙の色の再現には、ウーロン茶やコーヒー、紅茶を使用。絶妙な個体差や染色時間など、細かい調整が必要となる難儀な素材ですが、紙袋と同じく身近な日用品を用いることにこだわりがあります。さらに、紙のようなハリや折れ、擦れといった最大の特徴は、蝋引き加工で再現。同時に布に強度を持たせる働きも兼ねています。
大量生産され使い捨てされる紙袋とは対峙するように、経年変化とともに汚れやシワが刻まれて味わいとなるバッグ。作家が特に好みだという、紙が朽ちていくプロセスをゆっくりと反芻しながら、時間の堆積をも表現できる点において、単なる「再現」を超えたこの作品ならではの愉しみ方があります。
From Artificial To Natural
オランダ人のアーティストヘルマン・デ・フリース(1931–)は造園土木を学んだ後に農業に関する仕事に就き、その後は植物保護事業に従事、1953年からアーティストとしての活動を開始した。1970年にはアトリエをドイツの小さな村エッシェナウに構え、制作活動を続けている。
彼の作品には幾つかのコンセプトがあるが、この作品集は「自然の多様性と豊かさ」を表す活動がテーマになっている。巻頭は1986年、ヘルマンとパートナーのスザンヌが野原に植林をするところから始まる。当初は植物の配置が人為的で、また植生も限られている。しかし、時間の経過と共に木の下には草が生え、実がなり、落ちた種から新たな木が徐々に育ち、キノコが生え、鳥やリスが巣を作る。短い時間の比較ではそれほど大きな変化は見受けられないが、巻頭と巻末に収録された写真を比較すると、同じ場所とは思えないほど変化し、それは今も進行中だ。
最初に行われた植林は人工的な行為だが、最終的には自然と同化している。この結果にはヘルマンの「人工は自然の対立項ではなく、その一部である」という思想が表れているように思えてならない。さまざまな技術が発達して、ヒトは世界を操作できると誤解した瞬間に、自然を対立する存在に押しやってしまったが、本来ヒトは自然の一部であることをきちんと理解していたはずではないだろうか。ヘルマンの作品は、様々な問題が世界のあらゆる場所で起こっている今日こそ立ち戻るべき価値観を提示している。
<文:中島佑介(「POST」ディレクター)> Produced by: BAGN Inc. Photos: Teruyoshi Toyota
Anne Schwalbe × Kazumi Takigawa
POP UP
2.22 fri.- 3.3 sun.
THE LIBRARY 表参道店と天神店で
ベルリンで行われたAnne Schwalbeの写真と瀧川かずみのバッグのイベントを開催。