1 Sep
THE TABLOID
2018 A/W
# 1
Beauty of Imperfection
Rosemarie Auberson
アーティストになるまでの経緯を教えて下さい。
幼い頃から絵を描くことやアートには興味を持っていましたが、学生だった20歳の頃に、描くだけではもの足らなくなり、グラフィックデザインやアートディレクションといったデザインの分野で自分をもっと表現しなくてはと考えるようになりました。クリエーションやアートはどこにでも存在する。いわば、アートは包括的であるという、「バウハウス」の創作に対する概念が気に入りました。異なる分野にも労力を等しく費やすことができるという解釈です。写真、作品集、雑誌、印刷物・・・さまざまなコミュニティと仕事することに興味を持っていたので、キャリア初期にデザインの基礎を固めました。その後、依頼仕事でイラストを描く一方、ペインティングの練習も再開しました。なぜなら、依頼仕事からの逃げ道が必要だったのです。仕事に対する私のスタンスが、コマーシャルというよりはアート寄りだったのでしょう。最終的に、アートディレクションやイラストより絵を描くことが多くなりました。最初の興味に一周回って戻ってきたということですね。
<未完成の美/不完全な美>は、あなたの作品を特徴づけるキーワードといえます。このスタイルになったのは、どのような背景があるのでしょうか?またこれらの作品群から何を表現していますか?
創作を通じて、動きのなかにある“何か”、狭間にある“何か”を捉えようとしています。心にあるイメージや他人と分かち合いたい感覚を、視覚的な記録として描こうとしているのだと思うのです。完璧にコントロールしきれない絵画もまた、作品の一表現形態であると考えています。絵画は時にその範疇を超えて、作品自体がもつ資質に応じてその役割を担うものですから。未完成な感覚や儚さを追い求めていますが、いうなれば、目に見えないものや、そこには存在しないものを喚起させたいのです。なにを表現しているのか???この質問に答えるとするならば、私が描いた作品が美しかろうか美しくなかろうが、「美」とは未完成と不完全さの間に隠れているということでしょうか。
どのような場面で、創る喜びと大変さを感じますか?
長い時間クライアントと仕事をしながら、彼らの内にある考えを翻訳するプロセスで、アイデアを巡らし、よりパーソナルで親密なものを表現することが好きです。まるで果てしない旅のようなものですね。人生において必要な経験だと個人的に感じています。やりたいことだけをやるという意味ではなく、はっきりとした目標と制約を自身に課しているという経験です。私が求めていることにすぐには届かないので、たまにあくせくしてしまいますが、満足する状態になるまでには時間はかかるものなのでしょう。「我慢」は、創作行為のひとつと解釈しています。
アトリエの様子を教えて下さい。インスピレーションの源となる、お気に入りの本はありますか?
取り組んでいる最中の作品のいくつかを壁に掛けています。複数の作品制作を同時進行しており、それぞれ違う時間に取り組んでいるので、それらを俯瞰して見ることが大事なのです。
完成した作品も掛けています。作品に囲まれ、それが心地良いか確認するため、少しの間ですが作品とともに時間を過ごすことが好きですね。私にとって絵画とは、飽きずに一緒に住むことができて初めて完成するものだと思います。作品が強い存在感を放っていれば、違和感なく生活に溶け込みますから。 好きなものに囲まれて暮らすことは大切です。もちろん本も好きで、アート本や写真集など毎日違う書籍に目を通します。数年前に購入した『Western Artist in India』は、インドで過ごしたことのある美術家についての書籍で、ことある度に手に取りますね。ラウシェンバーグ、ハワード・ホジキン、フランチェスコ・クレモント、イサム・ノグチなど、インドという国が彼らの作品にどのような影響を与えたのかを考察する内容です。卓越な色使いで著名なジョセフ・アルバースとメキシコについての本も最近買いました。また、料理本も大きなインスピレーションとなっています。なぜなら、食におけるクリエイティヴィティとは、私たちが世界に適合していく様とつながっているだろうからでしょう。そこで、『Studio Olafur Eliasson: The Kitchen』を買いました。食は、政治的にも哲学的にも、またアートプロセスでも等しくありうるのかという彼らの問いかけが興味深いのです。
Rosemarie Auberson
ローズマリー・オーバルセン
パリを拠点に活動するアートディレクター兼イラストレーター。
コラージュ、ドローイング、版画などの多彩な手法を用いた抽象作品で知られる。これまでエルメスやカルティエなどのメゾンブランドとのコミッションワークも多数手掛けている。
Artisan Beyond Design
Aeta
興味が赴くまま、さまざまな国や地域を訪れ、現地での一期一会を形にするバッグブランド、Aeta(アエタ)。ブランドネームの語源は、日本語の「逢えた」に由来。デザインは白紙のまま、訪問地で出逢った技術者や専門家とのワークショップを通じてモノづくりを進めるユニークな手法で、型にとらわれないプロダクトを発表してきました。THE LIBRARYで取り扱いとなるアイテムは、日本古来より身近である鹿革を用いた“育てる”バッグ。人肌のようにしっとり柔らかく滑らかで、きめ細やかな風合いは、鹿革本来のキズなどあえて隠さない「素上げ」と呼ばれる仕上げならでは。植物の渋に含まれる成分のタンニンで、鹿革を専門とする国内老舗タンナーが丁寧に鞣しています。いわば生の革なので、ヒトの肌と同じように、日光や熱、摩擦で変化するデリケートさが理由であまり市場に出回りません。言い換えれば、使い始めたその時から馴染んで色艶が増してくる、エイジングを得意とする希少な革なのです。それゆえ、世界にまた二つとない自分仕様のアイテムに“育てる”醍醐味が生まれます。これら長所と短所がうまく共存する特異な素材を選ぶ審美眼と、素材を知り尽くした職人と二人三脚でアイデアを紡ぎ出す姿勢こそ、Aetaが独自性に富むプロダクトを生み出す秘訣といえるでしょう。
AETA POP UP EVENT
10月順次開催
THE LIBRARYで取り扱いとなる
DEER COLLECTIONを揃えてお待ちしております。
Layer As Metaphor
Books
フィンランドを代表する建築家のアルヴァ・アアルト。建築だけでなく、家具や日用品まで多くのデザインを手がけ、現在でも世界中で愛用されている。これまでに知られている史実では隠れていたが、アルヴァの黎明期を共に築いたのが妻でありデザイナーでもあるアイノ・アアルトだった。アイノは残念ながらアルヴァよりも先に他界してしまうが、1950年代以前のアルヴァ・アアルトの仕事は彼女との協働作業によるものだという。中でも特筆すべきは、家具メーカー「arteck(アルテック)」の設立だろう。アートとテクノロジーの交差を意味する造語として名付けられたこの会社で二人はさらに才能を発揮し、手がけた作品群をすべて連名で発表した。
本書には、アイノが亡くなるまでの期間に制作された作品群を中心に、アアルト夫妻の功績がまとまっている。ブックデザインはイルマ・ボームによるもので、裏の図版が透けてしまうほどの薄い紙が特徴的な造本だ。一般的に敬遠される裏写りは、活かし方によっては情報以上のものを伝える機能を持つ。この本では、彼らがアルテックを起業する前の仕事から辿っていくが、透けた紙の連なりを時間の蓄積のメタファーとして意識させることに成功している。本書は知られざる情報を提供するメディアであるのと同時に、アアルト夫妻のケースを一例としながら、隠れた存在や積層した時間など、表層には現れない事象の重要性を物語る書籍でもある。<文:中島佑介(「POST」ディレクター)>
Produced by: BAGN Inc.
Design: Yuri Suyama Photos: Teruyoshi Toyota