JOURNAL
HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

2023.05.16

HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

デザイナーの服作りの秘密を知る
SAYAKA DAVISデザイナー Sayaka Tokimoto Davis

デザイナーの美学と技術、
こだわりの結晶ともいえる洋服。
一着一着に込められたストーリーをひも解くべく、
服作りのルーツ、影響を受けた
モノ・コトについて伺いました。

 

SAYAKA DAVISをめぐる世界と、ものづくりの使命

─── New Yorkを拠点に、純粋な女性の美しさを追求しながら時代を解放させてきた「SAYAKA DAVIS」。2023年春夏シーズンでデビュー10周年を迎え、ますます期待が集まるデザイナーのSayakaさんが考える“温度を繋ぐものづくり”とは。

「今回のパンデミックを機にブランドの在り方を見直していた中で、あらためて“self-nourishment”というミッションと、“温度を繋ぐものづくり”というコンセプトを定めました。私たちはほとんどの製品に天然素材を用いているのですが、自然からの繊維を、糸にして編んだり織ったりして布になり、デザインし、パターンを起こして、縫製……というように、服づくりには本当にたくさんの人が関わりますよね。それからお客様に着ていただくことで、自然から授かったものがひとつの新しい姿に生まれ変わる。私はデザイナーとして、素材の魅力や生地のキャラクターと向き合ったり、縫製工場さんやパターンナーさんとの物作りの中で、一つひとつのプロセスにしっかり血の通った選択とコミュニケーションをすることで、その“温度”を繋げていけたらと思っています」

─── 巡り行くシーズンに合わせたコレクションの制作は、膨大なエネルギーを必要とする思考の連続。SAYAKA DAVISのクリエイションを継続させるインスピレーションは果たしてどこから来るのでしょうか。

「日常生活の中で、心に留まることを書き留めるようにしています。それは言葉やものの見方、音楽から得る感情や、アート作品の色彩など、身近に見つけたいろいろなヒント、自分の心に残ったことを書き留めておくんです。そしてシーズンのはじめにまだその“ときめき”が残っていることを探って、その小さい点を膨らませていくような感じですね。 “温度を繋ぐものづくり”というコンセプトにも通じるのですが、すごくパーソナルなところを伝えようとしていると思います」

喜びに満ちた10年目のギフト

─── 2023SSシーズンはSAYAKA DAVISにとって10年目となるコレクション。大きな節目となる制作に取り組む中で、Sayakaさんは今までに無い喜びを感じ、それが形になっていったのだといいます。

「ここまで続けさせてもらえて、本当にありがたいと思いました。すごく満たされて、感謝の気持ちが込み上げてきて。だから、この節目に作るコレクションが着てくださる人への“ギフト”になるといいなと思ったんです。ギフトボックスを開ける時のワクワク感、リボンを解く感じとか、包み込むようなシルエットを表現したくて、色々なギャザーのディテールや入れ方に応用してみたり、“ラッピング”から発展させて日本の昔ながらの組みひもをのようなマクラメのニットを作りました。カラーストーリーは大きな節目の始まりなので、新芽が芽吹くイメージでグリーンやイエローをメインに採用しています」

───オフィシャルサイトにも「日本の美学がデザインに込められている」と明記されている通り、SAYAKA DAVISは服を着用したときの肌の露出具合やバランス、シルエットといった目に見えるところだけではなく、その「ふるまい」にも意識を及ばせています。

「私は日本画や禅ガーデンにみられる“余白の美”という考え方がすごく好きです。欧米の絵画だと“空間を埋める”ことがフォーカスされるのですが、日本画や禅ガーデンは“余白”をいかに残して想像力を掻き立てるかという考え方があって、それが自分にはすごくしっくりくるんです。ただシンプルなだけではなくて、繊細な中に遊びがあり、ミニマルな中に驚きがあり、相反する要素が重なっていくデザインというのが、自分の中にずっと根付いている考え方だと思います。たとえば定番のダブルストラップのドレスは、掛けてあるときはシンプルな佇まいなのですが、実は4mくらい蹴回し(裾まわりの寸法)があって、着て歩くと生地が広がりをみせ、“わぁ!”というドラマがあるんですよ」

茶道との出会い、“ことわり”で世界をみる

─── 日本の伝統芸能や建築様式をはじめ、さまざまなカルチャーに影響を受けて作られるSAYAKA DAVIS。中でも茶道の世界の「理に叶った自由」という感覚に触れ、服作りにおける「理に叶ったデザイン」を意識するようになったSayakaさん。

「New Yorkに移り住んで14年になるのですが、海外に住むことでより日本の文化に興味を持つようになって、7年ほど前から茶道を学んでいます。茶道の世界には“理に叶った選択の上での自由”があって、決まりごとも多いのですが、それを越えたところに自由を見出していくんです。洋服でいうと機能美の感覚と近いと思うのですが、それが私にはとてもおもしろくて。デザインをする際の考えのベースになってきていると感じます。たとえばSAYAKA DAVISのエッセンシャルアイテムとして展開しているツイステッドスリーブのドレス。ボリュームのある袖にしたかったのですが、ギャザーってどうしても均一な、決まった形や印象になるし、タックはタックでどこか硬くなってしまう。じゃあどうしたらもっと動きがある自由な形でボリューム感を表現できるかなと考えて思いついたのが、“ひねる”というデザインでした。同じボリュームを出すにしても、見方を変えて表現したかったんです。そういうふうに、考え方の出発点や着地点をただランダムに選ばなくなったというのはあると思いますね」

SAYAKA DAVISをめぐる世界と、ものづくりの使命

─── 国と文化を越境しながら、確かな哲学をもってファッションと向き合うSayakaさんは、ブランドの顔ともいえる「ドレス」というウェアについてどう考えているのでしょうか。その背景について聞いてみました。

「デザイナーを志すようになった中学生のころはオートクチュールにあこがれていました。アレキサンダー・マックイーンとかティエリー・ミュグレのドレスが衝撃的で、まるで夢のような世界だなって。そこが原点になって自分の中でドレスが特別なアイテムになっていきました。今はいろんな選択肢もできて変わってきましたが、それでもやっぱりドレスは特別な、女性が最もファッションを楽しめるウェアだと思っています。

ドレスがブランドの象徴的なアイテムになったきっかけは、2015 SSシーズンにNYのショールームで発表したコットンのダブルストラップのドレスでした。カラーは目の覚めるような鮮やかなロイヤルブルー。ロングドレスはその頃の日本マーケットではまだ受け入れられていない状況があったのですが、私は背が高くなくてもロングドレスを着たいと思っていましたし、NYでは街でカジュアルにドレスを着るムードがありました。その時のメインビジュアルも、NYの街をロイヤルブルーのドレスで颯爽と歩く女性像でした。それを日本のバイヤーさんにも新鮮に感じて頂けたようで、そのシーズンのヒットになりました。それから背中を大胆に空けたMストラップドレスや、脇をクロップしたサイドギャザードレスなど、ヘルシーに肌を見せるデザインを色々と提案して行きました。NYの女性は肌を見せる事に良い意味で開放的で、女性の自信をも表すと感じています。私自身も、女性はもっと自由で良いと思っています。今日本でもそういう事が受け入れられて来たのは嬉しい事ですね」


自宅の一角にあるアトリエと愛猫のBruce

流れ続ける時代性との関わり方

───人種のサラダボウルともいわれるように、NYは多様な価値観であふれ、目まぐるしい速さで流動し続けています。そんな環境に身を置きながら、Sayakaさんと「時代性」とはどんな関係なのでしょうか。

「常にフレキシブルでいたいし、時代性を取り入れていきたいと思っています。本来、あらゆるものが流れの中にあると考えれば、ファッションが移り変わっていくのも自然なことだと思うんです。以前は商業的なサイクルに合わせてシーズン毎に全部、新しいものを作らなきゃって思っていたのですが、“ものが完成する速度”は一定で6か月では絶対に無いですし、もしかしたら2年かけてやっと完成するものもあるかもしれない。自分も生活の中で実際に着て発見することがあるし、お客様に着てもらって、気付くことがあればそこからまた発展させて、やっと完成するものもあると思う。“速度がそれぞれ違う”ということに気づいたんです。だから固定された移り変わりじゃない方法で変わっていきたいし、その中で時代性も取り入れていきたい。必要なものに必要な時間をかけて、ものがちゃんと育っていくようにしたいと思っています」



───2023年のSSシーズン、THE LIBRARYで取り扱い予定のSAYAKA DAVISのウェアの中からひとつ、「ハンカチーフスリーブドレス」について、お話を聞きました。

「10周年のテーマの話でも少し触れましたが、今シーズンは “ラッピング”をディテールに表現しました。着物的というか、着物も四角い布に人の身体が入って立体作られるので、そういうところを洋服で表現したいなと。風呂敷の包み方もヒントになりましたね。包むものによってあの四角い布が変化していくのがおもしろいと思って。そういうことを取り入れてみたくて作ったのがハンカチーフスリーブドレスです。スリーブの部分がハンカチみたいに四角でできていて、両端を縛ったりもできるんです。こういうドレスをカジュアルにコットンで作るのがとても好き。私の中でドレスは男性のパンツと同じくらいデイリーな位置付けというか(笑)。ハレの日の装いにもなりますが、スニーカーと合わせるのも良いし、カジュアルに日常的に着てほしい。日常の中でちょっと非日常の方に心を誘ってくれるような……。ドレスという服はそういうドラマチックな演出ができると考えています」
SAYAKA DAVIS / Handkerchief Sleeve Dress ¥59,400

SAYAKA DAVISのファッション観と、Self-nourishment の意味

───ブランドのミッションである「Self-nourishment」は直訳すれば「自己栄養」という意味ですが、SAYAKA DAVISは、着用する人へどのようなメッセージを伝えようとしているのでしょうか。企業、ブランド、コミュニティ、社会、そして個人との関係とは。

「“nourishment”には“癒し”や”栄養”という意味があり、装うことは日々の自分との対話”と捉えています。どんな色、形、スタイリングを選ぶかで、私たちは自身の心の中をのぞいているのかもしれません。そして、ちょっと自分の背中を押したいときには、いつもと違った色やデザインのものを着てみるとか、ファッションはそういった在り方もできると思っています」

「ロックダウン中もNYに居たのですが、パンデミックに加えてBlack Lives Matterの社会運動も起こっていて。そういう環境や人権といった社会問題が浮上してきたとき、規模の大小にかかわらず多くのブランドが “私たちはこういう考えですよ”と意思表示をしていたんです。私はそれにすごく衝撃を受けて、企業やブランドの在り方を考えさせられました。私たちはただ洋服を作っているのではなく、生活に繋がる“スタイル”を提案していて、同時にそれに共感してくれる人とコミュニティ作っているのだ、という気付きを得ました。それまではただ自分が作りたいものをコンセプトとして掲げていたのですが、もしそこが最終点だとしたら、自分のやっていることは意味が無いと思いました。私たちが作っているものが、着てもらう人にとってどんなものでありたいのか、ということをゴールにしたい。そう考えたときに“self-nourishment”という言葉が生まれました。

何でも良いと思ってただ洋服を着るなら、それは何でもない行為に終わってしまうけれど、そこに“意”を込めて選んだり、自分でスタイルを作っていくことで自分との“対話”や“栄養”になったりもする。自分がこういうふうに変わりたいと思ったら、そう装ってみることで変われる。服にはそういう“ポジティブな力”があると思っています。私は服づくりを通して、誰かの肩をポンと叩いたり、ほんの少し背中を押したり、ハグをしたり、そういうことができたらいいなと思っています。それが“self-nourishment”という言葉に込められた思いです」

───とても深いお話をありがとうございました。SAYAKA DAVISに込められた強い気持ちが伝わります。

「服を着て楽しんでいただくことが一番大切なので、“self-nourishment”や“温度を繋ぐものづくり”について、あまり説明っぽくなってもな……と自制するところもあったんです。ただ、どうしたらこの気持ちを伝えられるだろうと思っていたので、こうしてしっかり話せる機会をいただき嬉しいです。今日はありがとうございました」

サヤカ・トキモト-デイヴィス Sayaka Tokimoto Davis
文化服装学院卒業後、東京で5年間ニットデザイナーとしてキャリアを積み、2009年に渡米。ユナイテッドバンブーを経て、2012年にNYで自身のブランドをスタート。
www.sayakadavis.com/

 

Photography by Daisaku Kikuchi
Text by Soya Oikawa